だいが泣いた アーモンドのような彼の目から 涙が流れていた 私は犬が泣くのを はじめて見た 息子が高校に入学し、寮生活を始めることとなり 車で2時間ほどの現地まで 送っていく その日、 車内にどんどん詰め込まれていく生活用品や衣類。 私たちのドタバタの動き 息子の様子などから 何となく状況が解るのか... かなは相変わらず ”兄ちゃん 兄ちゃん”と 甘えっぱなしなのだが だいは どことなく元気がなく 心なしか いつも以上に 真面目な顔で...少し緊張気味である。 あっという間の2時間だった。 現地に着き 荷物を寮に運び入れ その他、色々な手続きを済ませ なんやかんや・・・ じゃあ 私たちは そろそろ帰ろうかと。 息子は だいとかなに 「じゃあまたね。 時々は家に帰るからね」などと 声をかけたり 撫でたりしている。 実は私もかなり寂しい。 まさか、中学卒業で家から離れるとは 想定外だった 少しだけ しんみりしながら ふ.と だいを見ると... ”だいが泣いている?”... 本当に彼は泣いていた。 車の窓から顔を出して どこを見ているという訳でもなく ただ... つう~ つう~ と 涙を流していた。 ”大切な 大好きな人と これからは 離れてくらすのだ” という事を あの子は理解し 寂しくてたまらない心を ちゃんと表現していたんだね。 ”兄ちゃん”に向けた 深い 愛情を。
罪悪感
かなが怒った ”お母さん ちゃんと前に進んで下さい” ”逃げちゃだめだよ” ”苦しくたって 進むしかないんだよ” 罪悪感とはこれ程までに苦しいものだったか 人に傷つけられるより ずっと きついな...... 止まってたって、苦しいんだ 後戻りしたって、苦しいんだ 乗り越えられるとしたら 前に進むことだよ 少しずつでも いいから そうしていたら 進んでいることで 自信がついてくる 強くなってくる 心に 体力がついてくるんだよ そうすることで "罪悪感”というものに対して 今までは ただ ただ 苦しいだけだったのが きちんと 向き合い しっかり 味わって 昇華 することが できるかも しれない または 完全に昇華できなくとも 人生の教訓として 側に居ることを 受け入れられるかもしれない さらにいえば もしかしたら ここぞという時に ”頼れる良き友人” そんな存在になっているかもしれないな。 そうだったら 素敵だな 罪悪感か.... ハードル高いが 頑張ってみるか。 前に進もう 心に 体力をつけよう それしか ないな サンキュー かな
雨上がり
雨上がり ハルとヤマトと 公園を散歩 誰もいない 静かな空気 芝生があんまり柔らかいので 歩くのがもったいない そういえば ベンチの横で撮った かなの写真があったな あたたかな色の 夕日を背に にこにこ笑って写ってる 思えば 向こうに行ってしまう 半年くらい前だろう 身体は相当 つらかったはずなのに あの子は いつも にこにこしていた 「おかあさん つらい時、がんばらなきゃいけない時、 なるべく 笑っていてね 笑うんだよ どうしても 泣きたくなったら 泣いてもいいよ どうしても おこりたくなったら おこってもいいよ でもね おかあさん 約束してね 意地悪な 顔は しちゃだめだよ おくちを への字に しちゃだめだよ 笑っていて ほしいよ おかあさん」 澄んだ 空気 涼しい風に乗って かなの 声が 私に 届いた あの子がいない今も 私は あの子に 助けられている
あんずの木
2021年4月28日 あんずの木。 芽吹いて つぼみが ふっくら 柔らかそうだけど 触ってみると とても 力強く しっかりとしている。 かな と同じだ。 どうか つぼみのままで いてほしいよ 咲いたら 散ってしまうから。 やっと 会えたと 思ったとたん またすぐに いって しまうから どうしたものか。 今年は 特に 会いたくて たまらないよ かなから お母さんは 見えてるの お母さんは かなが 見えないよ。
ベルトハイト
2000年12月4日生まれ 正式名は ”ベルトハイト” かな は 2001年2月14日のバレンタインの日に我が家に来た。 だい の おやつを買うために たまたま立寄ったペットショップ。 中に入ると にぎやかに ワンちゃんたちの吠える声が...。 ペット業界も いわゆるブームというものがあるらしく その頃は 小型犬で 大賑わい。 ところどころに 柴犬やビーグル 他にも...。 私は あまり犬には詳しくなかったので...。 ふと 目が行った先に すみっこのほうに置いてあるゲージがあった。 まるで”バーゲンセール”のように値段が書き換えられ その中には 吠えもせず おとなしく じっと座っている子がいた。 ”ゴールデンレトリバー” ”メス”と表示されていた。 目と目が合ったとたん その子は立ち上がって少しだけ シッポを振り出した。 ”どうしよう 何か気になる” ”あぁ 目が合ってしまった” 我が家では ちょうど昨年 当時中2の息子に拝み倒されて だい を迎え てんてこ舞いの 真最中。 おとなしめの子だが 多分 北海道犬とシェパードが入っていると 思われる 一見 迫力のある 大きめな雑種である。 成長過程で ”もろ、シェパード”を前面に押し出していた時期もあった。 しつけも まだまだ課題だらけ。 そんな中で勢いだけでもう一頭...というわけにもいかず。 ”うーん”と頭の中で一人で勝手に悩んでいると お店の方が ”だっこしてみますか?”と。 おいおい だっこなんかしたら完全にアウトだろ。 しかも 気付いたら いつの間にか 夫と息子がすぐそばに。 その目を見ると二人ともとろけそうな ♡マーク。 当然の流れのように... だっこさせてもらった... ハイ! ほぼ決定ですね 心はね。 だが さすがに1週間考えることにした。 自信もなかった 大型犬2頭、きちんと世話をできるだろうか... 不安もあった。 一週間後にあらためて来て その時まだここに居てくれたら 決めようか...ということで まとまった。 それが何故か その一週間 夫と息子は 考える...というより もうこの家にあの子が来ている設定か? と思われる会話の乱発。 私といえば ”あぁ 一週間後ちゃんと待っていてくれるだろうか”...と 似たようなもので。 あっという間の一週間。 迎え入れる気 満々で 週末お店へ。 ”いた!いた!” ”ちゃんと待っていてくれた!” 夫と息子は何気に ほっぺがピンク色。 私も胸がドキドキ。 ”大変だろうな”なんて気持ちは吹っ飛んでいた。 ミスドのケースのような箱に入れられて お店の方から渡された。 そして、車の中で お利口にしていた だい の横に その箱をそっと置くと (箱の)中で 何やらゴソゴソ。 だい は ”え?” ”何ですか?” そっとふたを開けると ”ジャジャーン” だい に向かって ”あなた だれ?” だいくん まったく状況がつかめず ”え?” ”なに?” ”なんですか?” だいくん あたふた...オロオロ... しまいにはキューン ピーピー って...(なぜ君が泣くのだ) だいくん... おかーさんは、 そんな君が 大好きだよ... 帰る途中の車内では ずっと話し続ける夫と息子。 声が上ずっている 顔をみると 両者共 いつも以上に血色が良い。 私も身体が暖かい 人間はうれしいと体温が上昇するのか ・・・ということはだ。 やはり ”喜ぶ”ということは健康の秘訣だな。 家に着き中に入ると お店では おとなしめの おしとやかな 感じ 満載だったのに あら.まぁ 活発なこと 積極的なこと。 床にポンっておろしたら 全力で飛び跳ねている まるで 子供がスキップをしているみたいだ。 だいくん 完全に押され気味。 かな は ”あたし今日からここの家の子になったの。よろしくね!” だいくん ”は、はい。こちらこそ...え?!” (名前は かな。私が付けた) 元気で明るくて 可愛らしくて そんなイメージだった。 まるで 色とりどりの ドロップのような子だった。
ゴールデンレトリバー
ゴールデン レトリバー
可愛い 可愛い、私たちの娘
食いしん坊で おてんばで 甘えん坊だけど
なかなかのクールで
お友達が まわりに 沢山 いても
その お相手は ひとつ歳上の だい にまかせっきり。
自分は ”フ~ン”ってすましている。
それが
おやつをもらえる時の 情熱のまなざし 激しいリアクション
といったら・・・・。
そのギャップが何とも・・・。
そして ものすごい勢いで お父さん子だった。
夫が帰ってくると
おやつの時に負けないくらいの熱量で
だいたいの時間になると 律儀に 玄関近くの窓から
ずっと ”これ以上ないっちゅうくらいの真面目な顔” で
1時間も待ち続けていた だい を
”ただいまぁ”の声を合図に
ものすごいスピードで
蹴散らかして・・・というか
吹っ飛ばして・・・というか
”お父さ~ん”♡♡
ああ・・・
なんという・・・・・
だい は というと
その後ろから 体制を立て直して
ちょっと遠慮気味に
”お、お父しゃん お、お帰りなしゃい”・・・
こんな 感じだった。
花を
花を。 花を水辺に置かせてもらおうか、と考えたが それはやめた。 思いたち きれいな包み紙のチョコレートをたくさん 大きなテーブルの上に散りばめた。 不気味な 恐ろしいゆれのなか あっという間に のみ込まれ 向こへ行ってしまった人達。子供達。 その心。 食べてくれたら いいなって。 そして、その心が、 恐怖や、痛みや、悲しみや、寒さや、 様々な ”何故?” という あまりにも 理不尽な 出来事に対する ”いかり”の 感情から とき放たれて どうか 今は 暖かな やすらぎの中に 居てくれますように。 欲を言えば 次の転生に向けて、希望や、喜びを感じて いてくれますように、と。 そんなことを願いながら。 すると その時。 かなが、 私たちの 可愛い 可愛い かなが そのテーブルの上を 天井を ぐるりと見上げて思い切り しっぽを振り出した。 そして、その視線を追うと 神棚へと。 じっと見つめながら しばらくの間 しっぽを振り続けていた。 何の意味付けも いらない。 私、泣いてしまったよ。 2012年3月11日の午後でした。 そして その約1ヶ月後 かなは あちらの世界へと旅立った。 2012年4月17日 私たちの 可愛いあの子は 夕日の向こうへ 行ってしまいました。