”なでていい?” 何て やさしい 問いかけだろう 小さな小さな手で 私の大切な写真に 愛情を ”しるし”てくれた ありがとうが こみ上げてくる よろこび と ことほぎ いやされる という はっきりとした 体感 写真の中の かなの笑顔が 写真の中の だいの純粋さが 強く 深くなってくる この 小さな小さな手に 彼女の やさしい心に 感謝と 永遠につづく 強い 守りを。
“遊ぼうよ”
かなは 自分で わかっていたのか。 ここで過ごせる時間が あと もう少ししか ない ということを。 体調をくずし出してから だいに対して ずい分と ”お姉さん”だったな。 ふと 想い返してみると そのころから だいは かなに 甘えるようになっていた 気がする。 全部は覚えていない。 ところどころだけだ 人間の記憶能力など こんなものか いや 私が単に 忘れっぽいだけなのか。 その日はいつもより つらそうだったので かなは おうちで お留守番 ささっと だいだけ おしっこ うんちの為に 外に出た。 途中でかわいい柴犬の子犬に 出会った ”遊ぼう 遊ぼう”と... 何て可愛らしくて積極的なのか まるで ここに来たころの かなと同じだった。 不器用なだいは ”えっと” ”おおっと”と 彼女の愛らしいアタックを かわしながら 何とか精一杯お相手をして... だいくん、 人間だったら どんなタイプなのかな 想像すると 笑えてくるな 家に帰るなり だいはかなの側に飛んでいった。 ”遊ぼうよ” いつになく積極的だった かなは よいしょと身体を起こして ”まったく しょうがないわね” とでも言いたげな顔で だいの顔を ペロペロなめていた。 だいに 育てられた かなが いつのまにか だいのお姉さんになっていた。 外は雪 凍りつくような寒さでも 家の中は 申し分のないくらい 暖かかったな あのとき あの ほんの少しの時間。 「愛」って言葉で 表現しようか 「統合」って言葉で 表現しようか どう 表現したら いいのか 今の私には まだ わからない
色
あの子たちが いってしまって 私の中から いくつかの色が 消えた。 そして その後すぐに 魔法のように 現われた ハル。 この子は 濃くて とても強い色を 持っていた。 まるで 私の中の 色が 減らないように なっているみたいだ。
梅林公園
そういえば 梅林公園に あの子達を連れて 行ったことがあった。 お天気の良い 暖かな日だった。 とても広い公園で だい も かなも たくさん 歩いたね。 すれ違う方達に 声をかけてもらったり なでてもらったり うれしかったね。 ワンちゃんも結構 たくさん来てたよね それがまた おしゃれな かっこいい ワンちゃんが多くて びっくりだった。 かなは いつものように ”フーン” て 感じで スイスイ歩いている。 だいは 「おかーさん ぼく ここに来て よかったのですか」 などと 思っていそうな 遠慮がちな 様子だったな。 だいくん。 おかーさんの中では 君は 今までも これからも ずっと 誰よりも 最高に かっこいい 男だよ。
だいが泣いた
だいが泣いた アーモンドのような彼の目から 涙が流れていた 私は犬が泣くのを はじめて見た 息子が高校に入学し、寮生活を始めることとなり 車で2時間ほどの現地まで 送っていく その日、 車内にどんどん詰め込まれていく生活用品や衣類。 私たちのドタバタの動き 息子の様子などから 何となく状況が解るのか... かなは相変わらず ”兄ちゃん 兄ちゃん”と 甘えっぱなしなのだが だいは どことなく元気がなく 心なしか いつも以上に 真面目な顔で...少し緊張気味である。 あっという間の2時間だった。 現地に着き 荷物を寮に運び入れ その他、色々な手続きを済ませ なんやかんや・・・ じゃあ 私たちは そろそろ帰ろうかと。 息子は だいとかなに 「じゃあまたね。 時々は家に帰るからね」などと 声をかけたり 撫でたりしている。 実は私もかなり寂しい。 まさか、中学卒業で家から離れるとは 想定外だった 少しだけ しんみりしながら ふ.と だいを見ると... ”だいが泣いている?”... 本当に彼は泣いていた。 車の窓から顔を出して どこを見ているという訳でもなく ただ... つう~ つう~ と 涙を流していた。 ”大切な 大好きな人と これからは 離れてくらすのだ” という事を あの子は理解し 寂しくてたまらない心を ちゃんと表現していたんだね。 ”兄ちゃん”に向けた 深い 愛情を。
雨上がり
雨上がり ハルとヤマトと 公園を散歩 誰もいない 静かな空気 芝生があんまり柔らかいので 歩くのがもったいない そういえば ベンチの横で撮った かなの写真があったな あたたかな色の 夕日を背に にこにこ笑って写ってる 思えば 向こうに行ってしまう 半年くらい前だろう 身体は相当 つらかったはずなのに あの子は いつも にこにこしていた 「おかあさん つらい時、がんばらなきゃいけない時、 なるべく 笑っていてね 笑うんだよ どうしても 泣きたくなったら 泣いてもいいよ どうしても おこりたくなったら おこってもいいよ でもね おかあさん 約束してね 意地悪な 顔は しちゃだめだよ おくちを への字に しちゃだめだよ 笑っていて ほしいよ おかあさん」 澄んだ 空気 涼しい風に乗って かなの 声が 私に 届いた あの子がいない今も 私は あの子に 助けられている
あんずの木
2021年4月28日 あんずの木。 芽吹いて つぼみが ふっくら 柔らかそうだけど 触ってみると とても 力強く しっかりとしている。 かな と同じだ。 どうか つぼみのままで いてほしいよ 咲いたら 散ってしまうから。 やっと 会えたと 思ったとたん またすぐに いって しまうから どうしたものか。 今年は 特に 会いたくて たまらないよ かなから お母さんは 見えてるの お母さんは かなが 見えないよ。