遠吠え2

"その日”は
朝から じ...んと
肌寒かった

”退院”からの
2日間...

その 1分 1秒 が
このうえなく 愛おしく

往診で先生にも
診ていただき
状態は少し 安定してきていた
呼吸も ほんの少しだが 楽そうだ

”玄関が いいの”

”ここが いいの”

かなが 自分の居場所を
主張する

 そうだね かな
 兄ちゃんが 帰ってきたとき
”いちばん”で お出迎え
 したいもんね

その”場所”に
 安心したのか
 納得したのか

あの子は スースー
眠っている

私とだいも すぐそばで...
少し ウトウト しながら...

時間...て
こんなに ゆっくり 流れている
ものなんだな...
そんなことを ふと 思ったり

”クウ...”かなが 言った

 急に かなは 身を
 起こして 再び

”クウ...”と息をもらした

私は あわてて あの子を 抱きかかえ...

「お水が ほしいの? かな?
 気持ちが 悪いの?...」

”どうしよう” 
”どうしたら いいんだ”

「かな」の名前
 呼び続けると

あの子は 一瞬 身体を そらせた

それから 少し 口を 動かした...

”クウウ...”と 上を向いて...

次の 瞬間
 ドスン...と
  あの子の 身体の 重み...が
   倍になって...

その重みが
 現実を
  突きつけてきた

何...が 起きたか...を
 私に知らせてきた

あの子が 逝った
 その 瞬間を...



その時
 そこに
  夫は 居なかった

あの子の 安定していた
 ほんの少しの時間

用事を すませる為に
 外に 出ていた

あの子は
 たぶん
  その時間...を
   選んだの だろう

自分の
 強い 意思で

夫の こころが
 そのとき...に
  耐えられないこと...を
   知っていたから

ねえ... かな...

 大好きな おとうさんのこと

  かなが 一番

   わかってるものね

遠吠え

20211105_遠吠え

2012年4月

病院...へ
かなを迎えに行った

”退院”...だ

出来る限りの治療はして頂いた
あとは...
この子が一番安心できる
 この、私たちの家で
  大好きなこの おうち...で

どこまで 体力を 回復出来るか...
それに かけてみましょう...と
毎日の 往診も お願いして...

先生 ありがとう
心強かった

家に着くと
玄関で だいが 待っていた

そうだよね だい
君たちは いつだって
一緒だものね

自力で起き上がれない かなを
 寝室まで 抱いて
  柔らかな 毛布の上に
   そっと. そっ...と

キュンキュンなきながら
ずっと そばで 右往左往の だい

しばらく...すると
 少し だいが 落ち着いてきた
  キュンキュンとなく
   声が ぴたりと 止んだ

そして
 そのすぐ後に...

だいくん おかーさんは
 あんな 悲しい声
  きいたことなかったよ

彼は
 立ち上がって
  思いっきり 顔を
   上に向けて

遠吠えで...
 泣いた
  3度...泣いた

   声が あがった

太くて やさしくて
 もって行き場のない
  悲しみに

身体をよじるようにして
 絞りだした
  声だった

この 今ある
 状況を
  一番 理解し
   受け止めていたのは

だい...だった

あの声は
 あの子の
  あの子なりの

”心の準備”の
 声だった

ねえ だいくん...
 私たちは
  心から
   ”家族”だよね

”退院”
 その夜 電話の向こうで
  息子が「帰る」
  「急いで 帰るよ」...と

私たちの会話が聞こえているのか
かなが 少し 反応する

「にいちゃん 帰ってくるって!」
そう 声をかけると
 かなは 立ち上がった
  少し 足は 震えていたけど

全力...で 立った

そして そのまま
 まっすぐ 玄関まで 歩いた

まっすぐ...に
 前...を見て

希望...なんだね
 かなの 大好きな 兄ちゃん

希望とは
 こんなにも 力を
  くれるものなんだ
   そう...思った

ねえ
 かな

”生きる”ってこと だね
 全力で”生き抜く”ってこと だったんだね

ねえ かな
 今だって いつだって

かなは おかーさんの中に居る
 生きて...るんだよ

これからも
 ずっと...だよ

Kana

「おかあさん
  私 満足
   しているわ」

夢の中で
真正面に すっ...と立つ女性
大人っぽい そして とても
美しい女性

彼女が 私に
話しかけてくる

瞬時に 私は
この人が”かな”であることを
理解した

直感...というものを
 はじめて 強く 体感した

「かな、かな なの?
  どうしたの?」

私は とっさに 問いかけた

彼女は 再び 繰り返す

「おかあさん 私
  満足しています」

私は 少し 不安になって

「何を言っているの...どうしたの!
  かな!」

私の声が 大きく なってくる

彼女は 美しい口元に
手を そえたかと思うと
”吐血”した...

吐血...して

 そして そのまま
  倒れてしまった


「かな! かな! かな!...」

悲鳴をあげて
 泣きじゃくりながら
  目...が覚めた

”夢だ 大丈夫だ 問題はない”
 頭の中で 様々な 言葉が
  通り過ぎてゆく

同時に ぬぐい切れない 不安と恐怖

 こみあげてくる 涙...の中で

  かなの名前を叫びながら
   あの子をさがす手

驚いて起きてしまった夫が
「どうした? 夢か?
  かなは ここに 居るよ」

ああ、ほんとだ
 いつものように夫の横に
  ちゃんと 居る...
   居てくれている...

安堵...と共に
 また 涙が溢れ出す

私の 大きな声...と 涙...に

 あの子たち
  しばらく
   ぴたりと 寄り添ってくれていた

泣きながら
 だいとかな を 
なでながら

  いつの間にか 眠ってしまった


夢の中の彼女...
美しくて
まっすぐに 見つめる瞳もその声も
すきとおるように きれいで
”凛”としていたな

柔らかく カールされた
長い髪が 印象的だった


そして
その夢をみた
半年後...

その頃から
 あの子は 体調をくずし始めた

 
あれ...は

 そういう
  
  夢...だった



追記

私と夫にとって
かなは
いくつになっても
おさな子 だった

かわいい かわいい
 三才ぐらいの
  イメージだった
いつもつい赤ちゃん扱いをしてしまっていた

あの子が
向こうに旅立ってしまったあと

久しぶりに帰郷した
息子が ふと

「俺は ずいぶん
  かなに 甘えてた
   ほんと
    甘えさせてもらってたんだよね...」

「俺に とっては
  お姉さんだったよ」

そう言った


あの 大人びた 美しい女性
凛とした姿

かなの本質を
一番わかっていたのは
遠く離れていた
 息子だった

そして こんな言葉を 送ってくれた

「かーさん
  かなのこと
   ずっと 世話をしてくれて
    ありがとう」

「可愛がってくれて
  ありがとうね」


まったく...

 泣けて...

  くるよ...

“遊ぼうよ”

かなは
自分で
わかっていたのか。

ここで過ごせる時間が
あと
もう少ししか
ない
ということを。

体調をくずし出してから
だいに対して
ずい分と
”お姉さん”だったな。
ふと 想い返してみると
そのころから だいは
かなに
甘えるようになっていた
気がする。
全部は覚えていない。
ところどころだけだ
人間の記憶能力など
こんなものか
いや
私が単に
忘れっぽいだけなのか。

その日はいつもより
つらそうだったので
かなは おうちで お留守番
ささっと だいだけ
おしっこ うんちの為に
外に出た。
途中でかわいい柴犬の子犬に
出会った
”遊ぼう 遊ぼう”と...
何て可愛らしくて積極的なのか
まるで ここに来たころの
かなと同じだった。
不器用なだいは
”えっと” ”おおっと”と
彼女の愛らしいアタックを
かわしながら
何とか精一杯お相手をして...
だいくん、
人間だったら
どんなタイプなのかな
想像すると
 笑えてくるな

家に帰るなり
だいはかなの側に飛んでいった。
”遊ぼうよ”
いつになく積極的だった
かなは よいしょと身体を起こして
”まったく しょうがないわね”
とでも言いたげな顔で
だいの顔を
ペロペロなめていた。
だいに 育てられた かなが
いつのまにか
だいのお姉さんになっていた。

外は雪
凍りつくような寒さでも
家の中は
申し分のないくらい
暖かかったな
あのとき
あの
ほんの少しの時間。
「愛」って言葉で
表現しようか
「統合」って言葉で
表現しようか
どう
表現したら
いいのか
今の私には
まだ
わからない

雨上がり

雨上がり
ハルとヤマトと
公園を散歩
誰もいない
静かな空気
芝生があんまり柔らかいので
歩くのがもったいない

そういえば
ベンチの横で撮った
かなの写真があったな
あたたかな色の
夕日を背に
にこにこ笑って写ってる
思えば
向こうに行ってしまう
半年くらい前だろう
身体は相当
つらかったはずなのに
あの子は
いつも
にこにこしていた

「おかあさん
つらい時、がんばらなきゃいけない時、
なるべく 笑っていてね
笑うんだよ
どうしても 泣きたくなったら
泣いてもいいよ
どうしても おこりたくなったら
おこってもいいよ

でもね
おかあさん
約束してね
意地悪な
顔は
しちゃだめだよ
おくちを
への字に
しちゃだめだよ
笑っていて
ほしいよ
おかあさん」

澄んだ
空気
涼しい風に乗って
かなの
声が
私に
届いた

あの子がいない今も
私は
あの子に
助けられている

あんずの木

2021年4月28日

あんずの木。
芽吹いて
つぼみが
ふっくら
柔らかそうだけど
触ってみると
とても 力強く
しっかりとしている。
かな と同じだ。
どうか
つぼみのままで
いてほしいよ
咲いたら
散ってしまうから。

やっと
会えたと
思ったとたん
またすぐに
いって
しまうから

どうしたものか。
今年は
特に
会いたくて
たまらないよ

かなから
お母さんは
見えてるの

お母さんは
かなが
見えないよ。

ベルトハイト

2000年12月4日生まれ
正式名は ”ベルトハイト”
かな は 2001年2月14日のバレンタインの日に我が家に来た。
だい の おやつを買うために たまたま立寄ったペットショップ。
中に入ると にぎやかに ワンちゃんたちの吠える声が...。
ペット業界も いわゆるブームというものがあるらしく
その頃は 小型犬で 大賑わい。
ところどころに 柴犬やビーグル 他にも...。
私は あまり犬には詳しくなかったので...。

ふと 目が行った先に すみっこのほうに置いてあるゲージがあった。
まるで”バーゲンセール”のように値段が書き換えられ
その中には 吠えもせず おとなしく じっと座っている子がいた。
”ゴールデンレトリバー” ”メス”と表示されていた。
目と目が合ったとたん その子は立ち上がって少しだけ シッポを振り出した。
”どうしよう 何か気になる”
”あぁ 目が合ってしまった”

我が家では ちょうど昨年 当時中2の息子に拝み倒されて
だい を迎え てんてこ舞いの 真最中。
おとなしめの子だが 多分 北海道犬とシェパードが入っていると
思われる 一見 迫力のある 大きめな雑種である。
成長過程で ”もろ、シェパード”を前面に押し出していた時期もあった。

しつけも まだまだ課題だらけ。
そんな中で勢いだけでもう一頭...というわけにもいかず。

”うーん”と頭の中で一人で勝手に悩んでいると
お店の方が ”だっこしてみますか?”と。
おいおい だっこなんかしたら完全にアウトだろ。
しかも 気付いたら いつの間にか 夫と息子がすぐそばに。
その目を見ると二人ともとろけそうな ♡マーク。
当然の流れのように...
だっこさせてもらった...

ハイ! ほぼ決定ですね 心はね。
だが さすがに1週間考えることにした。
自信もなかった
大型犬2頭、きちんと世話をできるだろうか... 不安もあった。

一週間後にあらためて来て その時まだここに居てくれたら
決めようか...ということで まとまった。

それが何故か その一週間 夫と息子は
考える...というより もうこの家にあの子が来ている設定か?
と思われる会話の乱発。
私といえば
”あぁ 一週間後ちゃんと待っていてくれるだろうか”...と
似たようなもので。

あっという間の一週間。
迎え入れる気 満々で 週末お店へ。
”いた!いた!” ”ちゃんと待っていてくれた!”
 夫と息子は何気に ほっぺがピンク色。
 私も胸がドキドキ。
”大変だろうな”なんて気持ちは吹っ飛んでいた。
ミスドのケースのような箱に入れられて お店の方から渡された。
そして、車の中で お利口にしていた だい の横に その箱をそっと置くと
(箱の)中で 何やらゴソゴソ。
 だい は ”え?” ”何ですか?”
そっとふたを開けると
”ジャジャーン”
 だい に向かって
”あなた だれ?”
 だいくん まったく状況がつかめず
”え?” ”なに?” ”なんですか?”
 だいくん あたふた...オロオロ...
しまいにはキューン ピーピー って...(なぜ君が泣くのだ)
だいくん...
 おかーさんは、
  そんな君が
   大好きだよ...

帰る途中の車内では
ずっと話し続ける夫と息子。
 声が上ずっている
 顔をみると
 両者共 いつも以上に血色が良い。
私も身体が暖かい
 人間はうれしいと体温が上昇するのか
・・・ということはだ。
やはり ”喜ぶ”ということは健康の秘訣だな。

家に着き中に入ると
お店では おとなしめの おしとやかな 感じ 満載だったのに
あら.まぁ 活発なこと 積極的なこと。
 床にポンっておろしたら
 全力で飛び跳ねている
 まるで 子供がスキップをしているみたいだ。
だいくん 完全に押され気味。
かな は ”あたし今日からここの家の子になったの。よろしくね!”
だいくん ”は、はい。こちらこそ...え?!”
(名前は かな。私が付けた)
元気で明るくて 可愛らしくて そんなイメージだった。
 まるで
  色とりどりの 
   ドロップのような子だった。